OverTheBorder

荒唐無稽な音楽に内包する現代社会への提示

生活音や破壊音、さらには人間の生み出す音だけで音楽を作り、なおかつそこに確固たる信念も……。既存の概念を超えた音楽を生み出す奇才が目指すものとは。

ラジオや洗濯機、トースターの音など日常に溢れている音を用いて曲を作ったり……。
とある既製品を破壊した音をサンプリングして音楽を作ったり……。
そして、豚の生涯をテーマにアルバムを作ったり……。
さらにはチーズやポテト、玉ねぎなどでレコードを作り、プレイしながら食べたりプレゼントしたり……。
極めつけは人間の音、それこそ手を叩く音やものを噛む音はもちろん、寝言や体を洗う音、さらには排泄音や自慰行為の音……人体が生み出す音だけで音楽を構成してみたり……。
そんな“Over The Border”=既存の概念を超えた活動でダンスミュージック・シーンでも一際異彩を放っている男、その名はMatthew Herbert。

 

人間が誕生してこのかた音楽は常にその側に寄り添い、人々をときに潤し、ときに鼓舞し、ときに癒し、喜怒哀楽の全てを生み出してきた。人間に必要不可欠な音楽はあらゆる形であらゆる表現がなされてきたわけだが、その中にもある種のフォーマットは存在する。しかし、彼はそんな枠組み、既存の概念を軽く飛び越え、音楽として機能させるとともにひとつのアートフォームとして確立した。

 

しかも、その奇抜、はたまた荒唐無稽とも言えるプロジェクトの中に、確固たる彼の信念が込められているところがまたスゴいところ。
たとえば、別名義Radio Boyでの既製品(ファストフード、ファストファッションなど)を破壊した音を用いた音楽では政治やグローバリズムへの提議を唱え、豚の生涯をテーマにアルバム「One Pig」では“豚が生まれて殺されるまでに発する音で音楽を作る”という衝撃的なテーマのもと、現代社会の食文化の在り方について言及。はたまた食材を使用したレコードでのパフォーマンスは“食べ物の未来”を憂い、とりわけ食品が含む成分に対する警鐘を鳴らしていた。

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また、彼が昨年発表した人間が生み出す音で構成された最新作「A Nude (The Perfect Body)」では、世の中の予定調和を壊し、さらには他人の身体に感じる違和感を理解し、本当の意味での解放を求めていた。

音楽を通して現代社会が抱える問題を自分なりに提起するMatthew Herbert。とはいえ、彼は極めて異質なプロジェクトばかり行なっているわけではなく、アーティストしての才能も超一流。その証左に、数々の名作を生み出すとともに、世界の歌姫Björkをはじめとするトップアーティストたちのプロデュースやリミックスも手掛けていることだけは伝えておきたい。

 

そして、最後にもうひとつ。
彼は昨年アルバム「A Nude (The Perfect Body)」をリリースした際、音楽メディアFLOORのインタビューでこんなことを話していた。

 

“僕がまず考えていたのは……“音楽を使って世界を変えたい”ということだったんだ”

 

くしくも、JRと同じく彼もまた世界と向き合い、世の中を変えるべく挑戦し続けてきた。表現方法は違えど、通じるもの、そして目指すところは同じということか。

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